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時間が経てば経つほど、その寂しさは大きくなり、私を支配してしまう。
いつの日か、彼の家の前で彼の家族を彼と共に見た。
小学生低学年くらいの女の子と、彼と同じくらいか少し若く見える奥さんであろうと思われる女性。
その彼の表情も、その近くにいる女性の表情も穏やかで幸せそうに見えた。
何より、その女の子の愛くるしい面影は、二人の弛みない愛情が注ぎこまれた証拠だった。
そんな彼の家族を見ても、彼の幸せそうな面影を見ても、私は彼が好きだった。
好きだった
好き。
私も彼も、本気で好きだった。
幾度となくお互いの肌を重ね合わせても、好きと言う言葉だけしかなかった。
彼は私に、ピアノと彼を好きになることを教えてくれた。
そして、もう一つ。
「彼を好きになる事と、彼を愛することは違う事」を教えてくれた。
彼が九州の大学へ移籍するとき、一緒に来てほしいと言われた。
でも私は、行くのを断った。
彼は、その瞬間まで私を愛していると言ってくれなかった。
それは、私も同じだった。
彼と過ごした時間は今の私にとって思い出のかけらだけど、今でもあの人が奏でるノクターン第2番は私の耳に残っている。
暗闇の恋を思い出させるかのように。
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