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格好いいのは自覚しているが、そうじゃない。この年齢不詳の美しい人が誰を待っているのか気になっていたところに現れたのが男だったからなおさら注目の的になっているのだと説明するのは止めて、晴翔は椅子を雅人の方へ近づけた。
「見張るならこの角度の方が自然ですよ」
「あ、本当だ。晴翔くんすごい、才能あるね」
雅人はそう言って顔を近づけて笑った。晴翔は頬が緩まないように顔を引き締めて尋ねた。
「あなた、一体何の仕事なさってるんですか?」
すると雅人はさらに顔を近づけて晴翔の耳に囁いた。
「探偵。定番の浮気調査中。あ、来た。じっとしてて」
雅人は晴翔の肩を抱き寄せて素早く携帯を構えた。続けてシャッターを切る。自撮りのふりをして今マンションから出てきた男を撮っているようだ。今にも頬が触れそうな距離に雅人の顔がある。珈琲の匂いと、何か花の香りがする。じっとしてろと言われたが、雅人はこちらを見ていないしレンズも晴翔をとらえてはいないので、晴翔は顔の向きを変え至近距離で雅人を見つめた。ファンデーションを塗っているのかと思うくらい真っ白できめ細やかな肌は、とても30代の男性のものとは思えない。
「よし、撮れた」
雅人が携帯を下ろして晴翔から離れると、晴翔は自分の携帯を手に立ち上がった。
「俺にも撮らせて下さい」
晴翔は素早くテーブルを回り込み正面から雅人をカメラに収め、続けて通りを歩いて行く男にズームして写真を撮ると、男の写真だけ雅人に送った。
「おー、上手だね、晴翔くん。遠慮なく使わせて貰うわ」
雅人は自分が撮った写真と晴翔が撮った写真を事務所に送ると携帯を閉じた。
「お仕事終了。ありがとうね。晴翔くんお腹空いてる?お礼に何でも奢るよ。店変えてもいいけど・・・」
「いえ、じゃあ・・・」
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