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と妻に口酸っぱくお小言を聞かされる予定だった。
いつも通り、決め台詞の
『私が死んだら、あなたのせいだから!』
を聞く予定だった。
なのに、どうだろう。
私は何故か慌ただしい救急病棟の処置室の前に呆然と腰掛けている。
「あの...ご主人...。」
先ほどの眼鏡の男性看護師が再び私の元を訪れた。
とても残念そうに俯く彼の顔を見ても、彼が
「残念ですが...奥様はもう...。」
と言っても、イマイチまだ現実味がなかった。
それでも現実は取り残される私を待ってくれるわけではなく、彼はとても切なそうな顔で、申し訳なさそうに人が亡くなった後の書類を色々と説明してきた。
混乱していたけれど、嫌な役回りだろうなと彼に同情することはできた。
書類の中に『解剖』という文字を見つけて、凍りついた。
妻を切り刻むなんて辞めてくれ。
「...あくまでも、希望があれば...ですから。」
私の反応に気付いたのか、彼はそう教えてくれた。
「奥様の死因は恐らく心不全によるものと思われます...。奥様には恐らく生まれつきと思われる心臓の奇形がありました。それでこちらの病院へ通院していたのですが...。カルテをご覧になりますか?」
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