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心臓?心臓が悪いなんて...。それで医者に罹っていたなんて今まで一度も聞いたことが無かった。
私は彼からカルテを借りてページを捲った。
「ほとんどがパソコンに入っていますが、こちらには奥様に説明させて頂いた時の記録などが纏められています。」
なんという事だ。
妻の通院は、もう十年以上前から続いていた。
なのに、私は一切知らなかった。
知らされていなかった。
「なぜ.....。」
愕然とした。
私は自分の体調の悪さすら打ち明けられないほど彼女に見限られていたのだろうか...。
カルテには彼女の心臓奇形が手術で治すのがいかに困難であるか、下手をすれば手術を失敗して死に至る危険もあることが記されていた。
彼女はずっとこれを一人で抱えていたのだ。
治りもしない心臓の病を。
いつその身を危ぶめるか知れない爆弾を抱えて、たった一人で戦っていたのだ。
...何て...何て私は不甲斐ないのだろう。
彼女の孤独に寄り添うことは愚か、必ずあった筈の予兆にすら気がつけなかった。
私はカルテを閉じて、掛けていたメガネを外した。
水滴が邪魔をして、前が見えなかったから。
「...妻を...妻を自宅に連れていってはいけませんか?」
二人きりになりたかった。
いつも私を迎えてくれた彼女を私が迎えてあげたかった。
今までの苦労を労ってあげたかった。
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