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サッ。
瞬間、俺の視界に黒い影のような何かが過った。
次に鈍い音が響いた。聞いたこともない音――まるで硬い何かと何かがぶつかったような音だった。
それはハイキックだった。
小林さんの細くて綺麗な脚がおっさんの顎にめり込んでいた。素人の俺でも分かるような綺麗なフォームの蹴り。直撃を受けたおっさんはまるで糸の切れた人形のように、ゆっくり床へ倒れ込んだのだった。
――な、何が起こったんだ?
状況の分からない俺はただ目を白黒させるばかりだった。
意識を失ったおっさんを小林さんは、冷徹な目で見下ろしているのだった。
「ったく、手間をかけさせやがって」
小林さんそう吐き捨てる。いつも聞く声よりもずっと低い。何だか女の子の声には思えない。そして小林さんは自分の頭に手をかけた。そのまま自分の髪の毛を掴むと、帽子でもとるかのように床へ投げつけた。
――え? カ、カツラだったのか。
「山本マサユキ。貴様を強盗の現行犯で逮捕する」
そう言うと小林さん、くん? は胸ポケットから警察手帳を取り出した。
「ここで張っていれば、出てくると思っていたが、ったく手間をかけさせやがって。恥ずかしくて死ぬかと思ったぞ」
「君怪我はないか?」
小林くんは、腰を抜かす俺を見下ろしてクールに声をかける。
「いえいえ」
「なら、良かった」
そう言って小林くんはにっこりと笑った。それは初めて会った時のあの笑顔だった。
こうして街を騒がしていた連続コンビニ強盗事件は解決し、同時に俺の恋は終わったのだった。
完
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