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飲料コーナーの上にある時計に目をやる。時刻は深夜12時半。この瞬間、およそ60坪の店内には俺と小林さんの二人しかいない。いつもは二人いるレジも何故か今日は彼女しかいない。これは神様が与えてくれたチャンスだ。店に入った瞬間、俺はそう思った。そう。今日こそ、俺は小林さんに告白するのだ。
ゴクリッ。
俺はカラカラの喉を潤すように、唾を飲み込むと、レジへ向かってゆっくりと歩き出した。
手には何も持っていない。『好きです。僕と友達になってください』彼女の前に立って、ただそれだけ言うつもりだ。
頭の中で何度も繰り返したシュミレーションをもう一度頭の中で再生している間にも、俺と小林さんとの距離はどんどん縮まっていく。
「あの……ご注文は?」
レジの前に立つと、何も持っていない俺を小林は怪訝な顔で見上げた。
「あの……その……」
俺は口を開いた、しかし、何度も練習したというのに中々声が出ない。何とかして乾いた喉から言葉を絞り出そうとする。
しかし、その瞬間……
「オルァァ」
突然、自動ドアが開いて、誰かが怒鳴り声をあげながら店内に乱入してきた。
びっくりして俺達は声のした方を同時に振り向く。
――え? おっさん?
そこには半ズボンにヨレヨレのタンクトップ姿のおっさんが立っている。目を血走らせたおっさんの右手には出刃包丁が握られている。
「大人しく金出せ」
おっさんの第二声で俺たちは確信した、間違いないこの人はコンビニ強盗だ。ピンポーンと来客を告げる自動ドアの呑気な電子音が、室内に木霊している。
あ……
一瞬、俺の中の時が止まった。
頭が混乱した。そう言えば、最近この辺でコンビニ強盗が起きているってニュースでやっていたような……。
――ヤバい。どうしよう?
事態は逼迫している。混乱する頭を落ち着けて必死に今自分に取れる選択肢をひねり出す。
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