第2章 可愛い顔して口が悪い

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朝になり、僕は愛犬が歌う『タイガーマスク』の主題歌で起こされた。鼻唄ではなく、ガッツリ歌詞を歌い込んでいる。 あぁ、湘南乃風ver.だ。 とりあえず、彼が歌いきるまで待つ。 パチパチパチパチ。僕は、高らかに歌い上げた彼に、惜しみない拍手を送った。 「お上手、お上手。君は可愛いだけでなく、歌も上手いのか。新発見だ。」 〈いやぁ、照れるなぁ。〉 エムが少し目を細める。なるほど、コレは犬が照れている表情なのか。 手早く着替えを済ますと、エムと一緒に一階へと降りた。 「おはよう。体調は?」 母が朝食を作りながら聞く。 「おはよう。全く問題ない。さあ、エム『散歩』に行こう。」 エムがテッテッテッテッと玄関へ走って行く。 朝の散歩は、朝食前と決まっている。 昨日は、僕の代わりに父が行ってくれたのだろう。リビングに入ってきた父に丁寧に頭を下げる。父は無言のまま、大きく1つ頷いた。 男同士に言葉はいらない。 学校があるので朝の散歩はショートコースを行く。 〈楽しいね!楽しいね!〉 エムは、とてもご機嫌だ。 〈ねぇ、聞いてよ。カラスのヤツがまた嫌がらせしてきたのよ!〉 〈西のゴミ捨て場でしょ?ゴミの日は近付かないほうがイイわよ。〉 〈アイツら、わざと私たちの止まってる電線に来たりするのよ。本当に嫌だわ。〉 スズメたちは、お喋りに夢中だ。いつものチュンチュンより数倍騒がしい。 どうやら、エム以外の動物の言葉も分かってしまうようだ。 すんなりと、この状況を受け入れられてしまう自分に少々驚く。 そう、大した害はない。いつもより周りが騒々しくなっただけだ。 〈楽しいね!楽しいね!〉 相変わらずご機嫌のエムは、いつものUターンポイントを通りすぎようとする。 「こらこら。そっちには行かないよ。」 〈行こうよ。行こうよ。もっと、いっぱいお散歩しようよ!〉 「ダメです。僕には学校があるので。」 〈ちぇ。〉 エムはテンションだだ下がりで家路に向かう。 「君はお利口だね。今日は早く帰れるから、イイ子でまっていなさい。」 〈早く帰ってくるの!嬉しいな!嬉しいな!〉 エムのテンションが再び上がり、尻尾が嬉しそうに揺れる。尻尾は口ほどにモノを言う。
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