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朝になり、僕は愛犬が歌う『タイガーマスク』の主題歌で起こされた。鼻唄ではなく、ガッツリ歌詞を歌い込んでいる。
あぁ、湘南乃風ver.だ。
とりあえず、彼が歌いきるまで待つ。
パチパチパチパチ。僕は、高らかに歌い上げた彼に、惜しみない拍手を送った。
「お上手、お上手。君は可愛いだけでなく、歌も上手いのか。新発見だ。」
〈いやぁ、照れるなぁ。〉
エムが少し目を細める。なるほど、コレは犬が照れている表情なのか。
手早く着替えを済ますと、エムと一緒に一階へと降りた。
「おはよう。体調は?」
母が朝食を作りながら聞く。
「おはよう。全く問題ない。さあ、エム『散歩』に行こう。」
エムがテッテッテッテッと玄関へ走って行く。
朝の散歩は、朝食前と決まっている。
昨日は、僕の代わりに父が行ってくれたのだろう。リビングに入ってきた父に丁寧に頭を下げる。父は無言のまま、大きく1つ頷いた。
男同士に言葉はいらない。
学校があるので朝の散歩はショートコースを行く。
〈楽しいね!楽しいね!〉
エムは、とてもご機嫌だ。
〈ねぇ、聞いてよ。カラスのヤツがまた嫌がらせしてきたのよ!〉
〈西のゴミ捨て場でしょ?ゴミの日は近付かないほうがイイわよ。〉
〈アイツら、わざと私たちの止まってる電線に来たりするのよ。本当に嫌だわ。〉
スズメたちは、お喋りに夢中だ。いつものチュンチュンより数倍騒がしい。
どうやら、エム以外の動物の言葉も分かってしまうようだ。
すんなりと、この状況を受け入れられてしまう自分に少々驚く。
そう、大した害はない。いつもより周りが騒々しくなっただけだ。
〈楽しいね!楽しいね!〉
相変わらずご機嫌のエムは、いつものUターンポイントを通りすぎようとする。
「こらこら。そっちには行かないよ。」
〈行こうよ。行こうよ。もっと、いっぱいお散歩しようよ!〉
「ダメです。僕には学校があるので。」
〈ちぇ。〉
エムはテンションだだ下がりで家路に向かう。
「君はお利口だね。今日は早く帰れるから、イイ子でまっていなさい。」
〈早く帰ってくるの!嬉しいな!嬉しいな!〉
エムのテンションが再び上がり、尻尾が嬉しそうに揺れる。尻尾は口ほどにモノを言う。
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