第2章 可愛い顔して口が悪い

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通学時も、あちらこちらから色んな話し声が聞こえてきた。この町の生き物は、お喋りなようだ。 「キューチャン!キューチャン!」 八百屋の前では、看板娘(?息子?)の九官鳥がいつものように自分の名前を連呼していた。 昨日までの僕ならば、一応なりとも人語を操るキューちゃんに感心もしていたが、今朝は違う。 何故なら、我が家の愛犬はタイガーマスクの主題歌を歌いこなすのだから、名前の連呼など『へっ。』ってなもんだ。 何の意思主張、マニフェストも持たぬ選挙立候補者のような九官鳥の前を通る。 〈何だ!そのバカにしたような顔は!〉 キューちゃんは籠の中でバタバタと、怒りをあらわにしていた。 「バカになどしておりません。ただ君は何故、恥ずかしげもなく毎日、自分の名前を連呼しているのかと思って。」 〈仕事中だからだよ!こうやって、通行人の注目を集めるのが私の仕事なの!〉 確かに注目は集めている。通行人は一様にキューちゃんに目を止めている。まず足を止めさせ客を呼び込むのがキューちゃんの仕事ならば、キューちゃんは立派にその仕事をなし得ているではないか。 「これは、失礼致しました。」 僕はキューちゃんに対する非礼を詫びる。 〈分かればイイのよ。〉 「キューチャン!キューチャン!」 仕事に戻った九官鳥に一礼をして、僕は学校へ急いだ。 その後も、猫のケンカや散歩中の犬の愚痴を聞かされ続け、学校に着く頃には何だかグッタリしてしまった。 クラスの自分の席に着くと、僕は大きく1つ息をついた。ここには、人間しかいない。あぁ、ホッとする。
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