第1章 同じ黒色だったので

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塩味せんべいをかじりながら、パッケージを見つめる。君は塩味なのに、何故にサラダ味と名付けられておるのか…。 ふと、強い視線を感じ、目線を下げると『エム』が物欲しげに、こちらを見上げていた。 「これは、しょっぱいから君は食べれないのだ。塩分過多の体に悪い食べ物なのだよ。」 エムはクリクリの目でこちらを見つめたまま、首を傾げた。あぁ~、なんて愛らしいのだろう。 エムの名付け親は僕だ。 小学校入学を控えたある日、父がランドセルを買いに連れて行ってくれるコトになった。 父と向かったショッピングモールで僕は浮かれまくっていた。自作のランドセルのテーマを大声で歌いながら、スキップまでしていたのだから、それはかなりの浮かれ具合だった。 催事場へ向かうためエスカレーターに乗ろうとした僕と父は、横にあったペットショップを見付けてしまった。 ペットショップの硝子展示の中で子犬がジャレあっていた。僕と父は顔を見合わせ、エスカレーターには乗らず、ペットショップへと向かった。 ランドセルは逃げたりはしない。 人気のミニチュアダックスやチワワ、シーズー、ティーカッププードルは、もはやヌイグルミのような可愛さだった。 「アキト、見てみなさい。」 父の指先を辿ると、展示ケースの片隅で僕ら親子を見つめる瞳があった。 父と僕は頷き合い、父はランドセルを買うために母に渡されたお金を取り出した。 「買い間違えたコトにしよう。」 父は、はっきりとそう言った。 そう、僕と父は『黒色のランドセル』と『黒色の子犬』とを間違えて買うのだ。 誰にだって、間違いはある。
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