第1章 同じ黒色だったので

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父が店員に声を掛けると、小さな黒い塊が僕たちの目の前に出てきた。 「お尻を支えるように、優しく抱いてあげてね。」 おっかなびっくりな僕の手の中に、そっと渡された小さくて黒くてフワフワの塊は、とても軽くて温かかった。 店員から、色々な質問や注意事項を聞かされる。『お前たちに、この小さな命を預けられるか否か。』僕は人生で初めて、僕という人間が試されている気分だった。 「生き物を飼うのは、大変なコトがいっぱいあるけど、『僕』はちゃんとお世話ができますか?」 ここで『NO』と答えるワケにはいかない。幼い僕にも、それくらいは分かった。 「はいっ!」 僕は、とても大きな声でハッキリと返事をした。 ランドセルのテーマを歌っていたおかげで、僕のノドは絶好調だった。 父が店員のお姉さんに説明を受けながら書類を書いている間も、子犬は僕の手の中でおとなしくしていた。 「お前は、小さいね。」 「すぐに、大きくなるよ。」 子犬に話し掛ける僕の頭の上から声がした。びっくりして振り返ると、店員のお兄さんが立っていた。 「大人のチワワくらい?」 「いいや。チワワは大人になっても小さいけど、この子は中型犬だから。」 「中型犬?」 お兄さんは、しばらく考えた後、犬用の服の見本を2枚持ってきた。 「チワワは大人になってもSサイズだけど、この子はMサイズを着るくらい大きくなるよ。」 確かにMサイズの服は、Sサイズよりだいぶん大きい。 「そっか、君はMサイズになるんだな。忘れないようにしなくちゃ。」 こうして、僕と父は無事にランドセルと子犬を間違えて買って帰ることができた。
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