第1章 同じ黒色だったので

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帰りの車の中で、僕は彼に名前を付けた。『エム』と。君に名付けてしまえば忘れることはない。君はMサイズまでデカくなるのだ。 父は僕に、エムが『黒柴』という犬種だと教えてくれた。クルンと丸まった尻尾も、マロ眉も彼らの特徴なんだと。 エムは車の中でも、とても大人しかった。 家に着き、玄関のドアに手を掛けた父が 「これは、うっかりな買い間違いだ。」 と、僕に念を押した。僕はエムを腕に抱き、力強く頷いた。 リビングで僕らを見て固まった母に、父ははっきりと言った。 「同じ黒色で似てたから、間違えた。」 と。 母は怒らなかった。いや、少し怒った。「何故、犬を飼うのに必要な物も一緒に買ってこないのだ!」と。 それから、父と母はペットショップへ出掛けた。僕はエムと留守番をした。留守番をしている間に、僕はエムに我が家を案内した。 冷蔵庫の中も米びつの中も残らず見せた。今日から、エムは家族になるのだ。隠し事があってはいけない。 いつもは1人の留守番も、エムがいるだけで心強い。テレビの音がないとオバケが出そうでイヤだったけど、エムがいればテレビがなくても平気だ。 父と母は、『はじめての柴犬』という本も含め、必要な物も、本当に必要なのか?と思う物も、余すことなく買ってきた。
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