第1章 同じ黒色だったので

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エムは僕の弟のような存在だ。毎日、一緒に遊んだし、眠るのも一緒。散歩もエサやりも僕の仕事だし、僕はエムが大好きだ。 家族みんなに愛され、エムと過ごした時間は10年を越え、僕は高校生になっていた。 エムに見つめられながら、サラダ味せんべいの最後の1枚を食べきる。 エムは右に傾げていた首を、左に傾げた。なんて愛らしいのだろう。 「オヤツも食べたし、散歩に行くか?」 僕の『散歩』という言葉にエムが反応する。テッテッテッテッと走って玄関に行くと、僕が首輪を着けやすいように首を上げた状態でお座りをして待っていた。 「君は何てお利口さんなんだ。」 僕はエムの首輪を着けた後、両手でエムのホッペを掴みワシャワシャと撫でる。エムは目を細め、されるがままだ。 スニーカーを履き、エムの散歩セットを持つと僕らは散歩へ出掛けた。 エムの散歩コースは、その日の天気と時間と僕らの気分で決まる。ここのところ期末テスト勉強の為、短縮傾向だった散歩だか、今日でテストも終わったことだし久しぶりのロングコースにしよう。 自宅から西に向かって歩き出す。河川敷を通り、しばらく歩くと公園がある。公園と言っても遊具があるわけでなく、ベンチと何を模したのかも分からないオブジェがあるだけだ。 当然のごとく子どもなどいない。ベンチに座ってラジオを聞いてるジイさんと、僕らのように犬の散歩中の人がチラホラいるくらいだ。 公園を抜けると、大きな幹線道路へ出る道と商店街に続く道とに分かれる。夕方ということもあって、商店街のほうは人出が多く、幹線道路は交通量が多い。 公園の出口で、どちらに行こうかと思案していると、右手のほうから大型トラックがコチラに向かって突っ込んできた。 運転手が僕らに気付き、急ブレーキをかけるが間に合いそうにない。 僕は咄嗟にエムを庇うように、エムを抱いてうずくまった。
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