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気付いた時には、僕は病院のベッドに寝かされていた。
「あら?気が付いたわ。」
アンパンを手に持った母が、僕の顔を覗き込んでいた。
「僕、生きてるの?」
「えぇ。バッチリと。脳波も異常ないし、軽い打撲と膝の擦り傷だけですって。」
僕は大事なことに気付き、慌てて飛び起きた。
「エムは?」
「お父さんと家にいるわ。ケガもしてないし大丈夫よ。トラックに轢かれて打撲と擦り傷だけなんて、アナタの人生の運はコレで使いきったわね。」
母はアンパンを半分に割ると、口をつけてないほうを僕に差し出す。お腹が減っていたので遠慮なく頂く。
栗入り高級アンパンのはずなのに、僕の食べたほうには全く栗が入っていなかった。母が言ったことは、あながち間違ってないようだ。
でも、まぁイイや。運を使いきったとしても、エムが無事で僕も生きてる。栗がなくてもアンパンは美味しかった。
一応、大事をとっての1日だけの入院を終え、僕は無事に家に帰りついた。
「エム、ただいま。」
エムは玄関で盛大に尻尾を振り、僕の帰還を喜んでくれた。
〈お帰り、お帰り!すごく、心配したんだよ。〉
「心配かけてゴメンね。君も無事で何よりだ。」
〈食欲はある?良かったら、僕のゴハン食べる?〉
「食欲はあるが、君のゴハンはいらない。気持ちだけ貰っておくよ。」
〈???あれ?僕たち…普通に会話してない?〉
エムがつぶらな瞳で僕を見つめている。
〈右手あげて。〉
僕は右手を上げる。
〈左手あげて。〉
左手も上げる。
〈右手下げないで、左手下げる。〉
右手のフェイントには引っ掛からず、左手だけを下げた。
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