第1章 同じ黒色だったので

7/8

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
気付いた時には、僕は病院のベッドに寝かされていた。 「あら?気が付いたわ。」 アンパンを手に持った母が、僕の顔を覗き込んでいた。 「僕、生きてるの?」 「えぇ。バッチリと。脳波も異常ないし、軽い打撲と膝の擦り傷だけですって。」 僕は大事なことに気付き、慌てて飛び起きた。 「エムは?」 「お父さんと家にいるわ。ケガもしてないし大丈夫よ。トラックに轢かれて打撲と擦り傷だけなんて、アナタの人生の運はコレで使いきったわね。」 母はアンパンを半分に割ると、口をつけてないほうを僕に差し出す。お腹が減っていたので遠慮なく頂く。 栗入り高級アンパンのはずなのに、僕の食べたほうには全く栗が入っていなかった。母が言ったことは、あながち間違ってないようだ。 でも、まぁイイや。運を使いきったとしても、エムが無事で僕も生きてる。栗がなくてもアンパンは美味しかった。 一応、大事をとっての1日だけの入院を終え、僕は無事に家に帰りついた。 「エム、ただいま。」 エムは玄関で盛大に尻尾を振り、僕の帰還を喜んでくれた。 〈お帰り、お帰り!すごく、心配したんだよ。〉 「心配かけてゴメンね。君も無事で何よりだ。」 〈食欲はある?良かったら、僕のゴハン食べる?〉 「食欲はあるが、君のゴハンはいらない。気持ちだけ貰っておくよ。」 〈???あれ?僕たち…普通に会話してない?〉 エムがつぶらな瞳で僕を見つめている。 〈右手あげて。〉 僕は右手を上げる。 〈左手あげて。〉 左手も上げる。 〈右手下げないで、左手下げる。〉 右手のフェイントには引っ掛からず、左手だけを下げた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加