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(え……? 何? 何が起こってるの? この人誰?)
褐色の肌の人物は自分に背中を向けており、獣と対峙していた。そして片手には剣があり、それは血で汚れていた。瞬時にそれが獣の血である事に気づく。獣は苦しそうに唸ると退散していった。
「た、助かった……のね」
彼女は力が抜けてへなへなと座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
優しそうだが、少しやんちゃそうな声が頭上から聞こえる。彼は剣を布で拭うと鞘に戻し、彼女に手を差し伸べた。
「立てるか?」
「あ、ありがとう……」
手を握ると強い力で引っ張られる。
少し癖のある金髪に、男らしいハンサムな顔立ち。長いまつげの下にある青い瞳は澄んでいて。屈強な体は上半身には何もつけず、下半身も腰布にサンダルと、女性からしたらかなり目のやり場に困る格好をしている。
「助けてくれて、ありがとう」
「この辺は獣が多いからな、気をつけたほうがいい」
そう言って彼は歩き出した。
「あ、ね、ねぇちょと待って!」
「何だ?」
慌てて彼女は彼を呼び止める。
「信じてもらえないかもしれないけど、トイレの扉を開けるとここだったの。こんなわけわかんないところに一人でいるのも不安だし、一緒にいてもいい?」
「……いいよ、また襲われるかもしれないしな」
男は後ろ髪をぽりぽりとかくとまた歩き出した。
「私、兼嗣沙耶(かねつぐさや)。見ての通り女子高校生よ」
セーラー服のプリーツスカートの端を持ち上げて笑いかけると、男は首をかしげた。
「じょしこうこうせいとは何だ? 聞いた事ないぞ」
「は?」
女子高校生を聞いた事がないとは、どういう事だろう。沙耶が不思議そうに見上げると、男は気まずそうに顔を背けた。
「俺は……ガルディ。気づくとここにいた。……自分に関する記憶がないんだ、名前以外」
体は覚えているみたいなんだけどな、とガルディは剣の柄に手を置いた。戦い方も、サバイバルの仕方も体が覚えている。だが、自分に関する記憶が名前以外まったくわからないらしい。少し寂しそうに笑うとガルディは歩き出したので沙耶はついて行くしかなかった。
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