優しい世界

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「去年は、こんなに人が死んだ」 「うん」  ザー、という音が、不意に大きく感じた。 「世界は、何をしとるんだろうねぇ」  せかい。小さく、口の中でそう繰り返す。 「国は、何をしとるんだろうねぇ」 「おばあ。国は今、世界に夢中なんさ。今、世界が死ぬかもしれんっちゅう心配しとるんよ。僕らなんて、比べ物にならんくらいの問題抱えとる」  それはいつか見た小さな箱の中の景色。心がひどくざわついたのを覚えている。 「坊よ。国ってのは、ワシらがおらんと、意味などなかろう?」  そう。国民がいなければ、国などただの器に過ぎないのに。けれど答えなど考える間もなく、一瞬にして出た。勿論それを受け入れるのには結構な時間がかかったけれど、おばあは理解してくれるだろうか。そう思いながら、僕はゆっくりと、その残酷な答えを声にする。 「おばあ、国には僕らはいらへん。だから、誰もこっちにきたがらん。だから、ここで誰が死のうが、国には関係ない。おばあの持っとるその黒い機械からも、僕らの仲間の名前は絶対に聞こえん」  一、二、三回。白い息が視界を覆い隠したあと、おばあの声が小さく届いた。 「坊。お前はこの世界が憎いか? こんな世界が憎いか?」     
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