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震えているのは寒さのせいか、それとも別の何かが理由か。川を見続ける僕には察することはできないし、察そうとも思わない。
「おばあ。僕は別に国からいらん言われてもいいんよ。僕らの仲間の名前が、黒い機械から聞こえんでもかまわん。なんで名前も知らん奴らに、僕の大切な人らの名前を偏見と一緒に知らせな駄目なん。そんなんより、おばあが僕を覚えてくれとるだけで、十分なん。死んだ仲間らとの思い出を、僕らが持っとるだけで十分なんよ。だから別に、世界は別に、嫌いじゃない」
今ここにいるのも、もしかしたら世界のおかげかもしれないから。あの仲間と出会えたのも、もしかしたらそうなのかもしれないから。だから、僕はこの世界が憎いわけじゃない。ただ――。
「……そうか。坊、ワシも、この世界は嫌いじゃないよ」
そうおばあの声が聞こえたから、僕は少しホッとして、川を見つめ続けた。
ゆらり、漂った安堵の吐息が、視界を白で支配する。やがてそれは、歪んで消えて。けれど、クリアになったはずの視界は、歪んだまま元には戻らない。ポタリ、手の甲に落ちた雫。視線を上げれば、そこにはゆっくりと流れる、視界いっぱいの川。
「ねえおばあ。この世界は、僕にはあまりにも優しすぎるんよ」
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