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「よ! 久しぶり。旅行行かね? 富士山見に行こうぜ!」
そう言って数年ぶりに会った友人は俺を部屋から連れ出した。
「俺免許書忘れちゃってさ、運転お願い」
「いいけど……何もこんな真夜中に出かけなくてもいいんじゃね?」
「真夜中の方が道空いてるだろ? さ、早く行こう」
友人に急かさせ、俺は渋々車のドアロックを解除する。軽に二人で乗り込み、エンジンをかける。
「音楽かけんの?」
「そこにCD入ってる」
ドアポケットを指差すと友人はいそいそと取り出し、ディスクをセットする。少し懐かしい感じの恋愛バラードが流れてきて、友人はにやっと笑った。
「これ、お前チョイスなの?」
「いや、元カノが置いてった」
「え~普通捨てない?」
「別にいいだろ」
彼女に未練があって残しているわけではないが、何となく好きな曲だったので残していた。といっても、一人で車を運転する時は何も音楽をかけないが。
「隼人、お前っていつも突然だよな、昔から変わらないな」
「そうか? だって、やりたいって思った時に動かないと、いつ動くんだよ? そういう伊助こそ、いっつも流されっぱなしだな」
「ハハハ」
俺、桑原伊助と折越隼人は幼稚園から一緒の、いわゆるおさななじみというやつだ。隼人はいつも行動的で、一度これと決めたら動けない男でもあった。そういう俺はいつも周りに流されっぱなしで、特に隼人に振り回されっぱなしだった。自由すぎる隼人を毛嫌いするやつはたくさんいたけど、天真爛漫な隼人と一緒にいると楽しかった俺は親友にまでなった。
高校生になり、親の転勤で俺が引越しする日も突然サプライズパーティーを開いてくれた。二人でポロポロ泣きながらお別れしたのを覚えている。その当時スマホもなく、携帯もあまり普及されていなかったのでお互い連絡先を交換する事もなく、それ以来連絡を取る事はなかった。
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