屋上のベンチ 試し読み

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 ぐっと手すりを掴み、身を乗り出す。頭がぐらぐらして血が固まったようだ。全身が冷たくなっていき、じとっとした汗を吹き出す。この手すりをこえたらどうなるんだろう。死後の世界なんて、誰にもわからない。でも、今の私にこの世界を受け入れるだけの強さは持ち合わせていない。きゅっと唇を噛み締めて手すりに足をかけたその時―― 「何やってるんだ!!」  野太いが、優しい色の声が私を一瞬正常に戻す。いつの間に人がいたのか、ものすごい力で後ろから引っ張られる。その人物は私を抱き抱えたまま背中から倒れた。  目の前に美しい空が広がる。日光は等しく降り注ぎ、ぽかぽかと暖かい空気が身を包む。先ほどまでの寒気は消え失せ、全身の震えも止まっていた。 (私、生きてる)  ほっとしたのか、意識の糸が切れようとしている。すると、後ろの人物が私ごと起き上がって私を抱き抱える形になった。 「バカ野郎!! 自殺なんて何考えてるんだ!!」  耳元で怒鳴られ、耳が痛い。気圧されてついすみません……と小さな声で言うと、その人はため息を一つついて立ち上がる。振り返ると、雀の頭をしたジャージの、声から推測して男性だった。 「どんな悩みがあるか知らないが、自殺なんてするな! 残された人がどれだけ悲しいか考えろ!」  男は怒りながら手を差し伸べ、私を引っ張り起こした。 「軽いな……ちゃんと食べてないだろう? まだ若いんだから、残されている時間を大切にしろよ」  その言葉に、涙腺が決壊した。残された時間、この長い人生をずっと歩んでいかねばならないのだ。自分以外人外の頭をした集団の中で。言葉はわかるが、誰が誰だか声で判断するしかない。顔の区別など、つくはずがないのだ。今は見えるだけだが、その内臭いまで動物臭がしだしたらどうしよう、きっと耐えられないだろう。おそらく、また私は屋上に来る。  ぼろぼろと涙を拭きもせずに泣く私に男はオロオロしながら立ち尽くしていた。そして何か考えるとどこかへ行ってしまった。屋上に一人残され、私は声を上げて泣いた。
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