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ひとしきり泣くと私はふらふらとベンチに行き、座った。脱力がして、ふにゃんと手を放り出す。この状態になると全身の力が抜けて動けない。まぶたをぴくぴくとさせながら耐えていると、後ろに人の気配を感じた。
「おい、大丈夫か?」
おそらく声からしてさっきの男だろう。両手に缶コーヒーを持っている。
「泣きたきゃ泣けばいいさ。涙は、人間の熱くのぼせた頭を冷やしてくれるからな。ストレス発散にもなるらしいぜ?」
雀の頭なので表情はわからないが、おそらく苦笑しているのだろう。男は私の隣にどかっと座ると缶コーヒーを差し出してきた。
「ん、やる」
「え、でも……」
「いいから、毒なんて入れてないから」
私に缶コーヒーを両手で持たせると、男は太い指で缶コーヒーを開け一気に飲み干す。雀がコーヒーを飲んでいる……なんともシュールな光景だ。じっと見つめていると男は小首を傾げた。
「俺の顔に何かついているのか?」
「さぁ……」
「さぁって……」
「私、人の顔を人間と認識できないんです」
「は?」
言ってからはっと両手で口元を抑えた。手からこぼれ落ちた缶コーヒーが音を立てて転がっていく。男は驚いたが、じっと私の言葉を待ってくれた。
「……すみません」
「……言いたくなきゃいいよ、別に」
「……ごめんなさい」
じわぁと目尻に涙が浮かぶ。私は人に伝える事ができない病気になってしまったのか、と絶望したのだ。
再び泣き出した私を男は困ったように首の後ろをかいた。そして立ち上がり、転がっていった缶コーヒーを拾う。
「……ここは病院だから、色んな症状の人がいるよ。自分はそのうちの一人だ、って思えば楽になるんじゃないかな」
だから、謝るな。そう言ってベンチに缶コーヒーを置いて去っていった。残された私はただただ泣くしかできなかった。
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