欲望と音の調べ

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「こんにちは、石田さん。どうぞイスにおかけ下さい」 八雲は診察室へ入って来た石田に挨拶をすると、パソコンの画面を確認する。 その彼の後ろには、臨床心理士の冴美沙も同席していた。 「どうですか?最近、パチンコ店に行きましたか?」 八雲の率直な質問に、石田は戸惑う。 「実は昨日行って来たんです・・・」 「そうですか。勝ちました?それとも負けましたか?」 彼の勝ち負けの質問に、石田は苦笑いを見せた。 「それが負けてしまいまして。途中までは少しプラスだったんですが、ズルズルとやっている内に全部お金を取られてしまいました」 その話しを聞いて八雲は微笑む。 「石田さん前にも話しましたが、負けて当然なんですよ。お店はそのお金で経営を続けている訳ですから」 しかし、石田は納得いかない様子を見せた。 「でもこの前は、5万も勝てたんですよ!」 その言葉に八雲は反論をする。 「それはたまたま運が良かっただけです。あくまで聞いた話しですが、お店側としては売り上げ回収の約1割しか、見せ台として出玉を出さないと聞いています」 石田にとってそれは衝撃的な内容だった。 「それじゃあ、台に書いてある確率とかは関係なくなるじゃないですか!?そんなの詐欺だ!!」 「良く考えて見て下さい。お客が少ないのに、出玉を沢山出したらお店は1ヶ月ともたないでしょう。確率通りなんて当たらないんですよ!パチンコ店も商売なんです!あくまで遊戯と歌っている理由もそこにあります」 次第に石田の表情に怒りがこみ上げて来る。 「しかも今時のメーカーが作る台は、やたら演出や動く小道具を使って、当たる期待を持たせようとします。これを小出しにして、お金を注ぎ込ませようとさせる仕組みな訳です」 「んんっ!!」 八雲の後ろに立っていた冴美沙が、呆れた顔で喉をうならせた。
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