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その後私達は解散すると、音々と一緒に日岩寺(ひがんじ)へ来ていた。
月読音々は訳あって、日岩寺に居候していた。身寄りが、誰もいなくなったのが原因なのだが。
私、天海もここ真言密宗の在家僧であり、時々お勤めなどで足を運んでいた。
真言密宗は弘法大師空海が開いた真言密教の一派であり、この日岩寺はその本山でもある。
大きな本堂では毎日護摩が焚かれ、本尊不動明王は巨大な岩盤を削って出来た物で、国宝に指定されていた。
その為夏場などは観光客が訪れたりなど、一種のパワースポット的な場所になっていた。
「音々殿、お帰り下さいませ。天海殿もようこそ」
本堂脇の民家の玄関先で出迎えてくれたのは、雲海(うんかい)様である。寺の主人、日空阿闍梨(にっくうあじゃり)に次ぐ高僧で、私同様かなりの法力の持ち主でもあった。
「音々、お帰り」
そして雲海様の足元から顔を出した黒猫は、ハナと言う。
元々ハナは怨霊だったのだが、音々の神力で黒猫に封じ込められたのである。
今ではすっかり猫の姿が定着したらしく、本人?も気に入っている様子であった。
「ハナ、おいで!」
音々がハナを呼ぶと、ハナは走ってジャンプをして彼女の胸元に収まった。
「雲海様、阿闍梨は?」
私の質問に、雲海様は本堂を指差した。
「阿闍梨は今、客人とお話をされております。天海殿も本堂へ行って、客人の話を聞いて下され」
「私も?」
「御意に!私も後で行きます故」
そう言うと、雲海様は音々と一緒に家の奥へと入って行った。
私も荷物を置くと、本堂へつなぐ渡り廊下を通ってその場所へ向かった。
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