欲望と音の調べ

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「阿闍梨、天海でございます!」 私は本堂の引戸の前で膝をつくと、中にいる阿闍梨に声をかけた。 「天海か!?入れ」 それから両手を添えて引戸を開けると、私は本堂へ静かに入った。そこには、三十代くらいの男性と阿闍梨が対面して会話を続けていた。 「失礼します」 「天海、わしの横に来なさい」 「御意」 私は阿闍梨の右横に座ると、客人と相対した。 「こちらは岩城和明(いわき かずあき)さんじゃ。家族の方が新興宗教に入信されてから、様子がおかしいと言うことで相談に来られた」 阿闍梨の紹介で、私は男性に頭を下げた。 「十六夜 天海(いざよい あまみ)と申します。よろしくお願いします」 「こちらこそよろしくお願いします」 岩城さんは私の制服姿に、戸惑いながらも頭を下げた。多分、学生の私がこの場に来るとは思いもしなかったのだろう。 「天海、三光真教(みひかりしんきょう)と言う新興宗教を知っておるか?」 阿闍梨の質問に私は首をかしげる。全く知らない・・・と言うか、興味が無い。 「いいえ」 「そうか、実は岩城さんの奥さんが最近その新興宗教に入ったそうなのだが、どうも近所の奥さんから勧誘を受けて入信したらしい」 「それで相談と言うのは具体的にどの様な内容なのでしょうか?」 私の問いに、岩城和明さんが語り始めた。 「三光真教という新興宗教に妻が入信してから、急に様子がおかしくなりました!家事をしないで、部屋にこもって金の像に念仏みたいなものをずっと唱えてるんです!」 更に岩城さんは神妙な面持ちで語り続けた。 「実は入信に伴い、金の像を購入してきたんです・・・。そこの教祖の像らしいのですが、三百万円もするんです!」 私はその金額を聞いて呆気にとられた。新車一台は買える。
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