てて

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僕と君は年を重ねていたけれど昔のように2人で映画を鑑賞しに出掛けたり、泊まりがけの旅行に行ったり、たまに音楽を聴きながら食事を楽しむような贅沢な事をしてみたりして過ごした。 「若い頃には味わえませんでしたね」 と顔を綻ばせて声を弾ませる君を僕は目を細めて見詰めた。 目尻や口元にしわが見えるけれど、以前と少しも変わらず(あい)らしくも(いと)しく感じるその姿が眩しく映った。 触れる白く柔らかだった手もほんの少し骨張ってきたように思える。 「これからはどんな事だって、どんな物だって味わえるさ」 苦労させてきた事を詫びる勇気のない僕は照れ隠しをして顔を背けたけれど、君は「そうですね」と応えながら肩を揺らして笑った。 僕は君といつまでもこうして穏やかに笑い会えると思っていた…… そう、勘違いしていたんだ。 やっと2人きりでゆっくりとした時間を過ごせるようになった僕たちに、余裕を持って楽しむ時間は与えて貰えなかった。 定年を迎えて、また2人で次は何をしようかと考え巡らせていたのに、突然、君が倒れた。 君が病に侵され伏してしまった。
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