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白い清潔な部屋の白い清潔なベッドに横たわる君は、日に日に痩せ衰え小さな体が益々小さくなっていった。
「あらあなた、今日は少し寒くありませんか?タンスの中に長袖があるはずですから……」
「いや、それほどでもないよ。昼間はまだ暑いくらいだ」
「そうですか……ふふふ……風邪をひかないでくださいね」
などと毎日見舞いに赴く僕の体を気遣う君の微笑みが、弱々しくなっていくのを目にする度に胸が締め付けられた。
涙腺が緩くなっていたのか、潤んでくる瞳を隠す事で一杯一杯だった。
会話の出来ていた時間が少なくなっていく。
僕を見詰めてくれていた双眸が薄く開かれたままとなる。
浅く繰り返される呼吸が緩やかに音を無くしていく。
「……加枝、雪だ……雪が降ってきたよ……」
話し掛けるけれど答え返してはくれない。
握り締めるシワだらけの節くれだった細い手は温もりを保ったまま、僅かに指先を震わせて応えてくれる。
その年、初雪を観測した寒いその日に、閉じられてしまった瞼越しに覗き込む僕が窺えたのか、君は唇を奮わせた。
『あ、りが……と』
掠れた息遣いに消え入る声を乗せて、君は笑んだまま眠りについた。
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