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椿の細い腕がしなやかに俺に巻き付いてくる。
ぎゅうぎゅうと強く痛みさえ感じるほどの力で抱き着かれているというのに、それが心地よかった。
「まず落ち着こう」
「えぇ、そうね」
ふうっと椿は小さく音をたてて息を吐いたけれど、早鐘を打つ心臓の鼓動が合わせた俺の肌を震わせた。
黒く艶やかな髪をなでると、甘い香りが鼻を掠めた。
椿を慰めるためにそうしているのに、俺の方が母親に抱かれる子供のような安心感に包まれていく。
「こんな夜に、一人じゃなくて良かった」
思わず独り言が音になって漏れてしまう。
「こんなって…。まさか、もう何か起こっているの?」
不安そうな椿の瞳が、俺を捕まえた。
椿の身体は血の気が失せてしまったように冷たくなってしまっていて、俺は自分が零した一言を後悔した。
「すまない、俺の力不足で…椿を安心させてやることもできない」
「そんなこと…」
椿はそっと俺から離れた。
このままどこかに行ってしまう。慌てた俺は急いで椿を引き留めようとしたけれど、それは不要な心配だった。
椿はその冷え切った手で俺の手を包みこむと、漆黒の瞳を輝かせる。
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