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「大丈夫ですか!?」
僕はそう叫ぶと,いつの間にかその人のもとへ駆け寄っていた。
「近づくな!」男の人が叫ぶ。
「で,でも血が・・・」
自分でもビックリするほど,僕はうろたえていた。汗がどっと噴き出してくる。さっきまで駆け回っていたのもあるけれど,それだけじゃないと思う。
「あ!そうだ!これ・・・」
汗で思い出した。ハンカチがあったんだ。僕はハンカチを取り出すと,その人に差し出した。
「その前に質問に答えろ」男の人がそのまま続けた。
こんな状態なのに,どんだけ質問が好きなんだこの人は。
「釣りに来たんだな?」と,男の人。
「はい。そうです」と,僕。
「じゃあ,釣り糸と釣り針を当然持ってきているな」
「はい。持ってきてます」
なんか,何が言いたいのかわかってきたきがする・・・
「ここまで持って来い」男の人が命令する。
「えぇ・・・」
「できないのか?」
「できなくはないんですけど・・・その・・・」
「なんだ?」
「あの,上の道に置いてきちゃって・・・」
僕が指さす方をその人が見上げる。
「・・・」
「・・・」
そりゃあ,言葉も失うだろう。僕だって後先考えずに降りてきてしまったことを後悔しているくらいだ。
「マジか」
「マジです」
こんなくだけたも言葉使うんだ,この人。
「取ってきます。だからこれで止血しておいて下さい・・・」
そう言って,再びハンカチを差し出す。
「清潔なのか?」
信じられない。それが人の善意に対して言う台詞なのだろうか。僕は完全に頭にきた。
「じゃあ使わなくていいです!」つい,声を荒げてしまった。
「いや,すまない。悪意はないんだ」男の人はそういうと,ヘルメットの横にあるボタンを押した。
シューっという音とともに,ヘルメットのバイザーが滑らかに動いていき,収納された。
そこに現れたのは・・・フツーの少年だった。
顔立ちは整っていて中性的だが,ぼくらと何も変わらないように見える。
すると,その人が口を開いた。聞いたことのない言語の男の人の肉声と,ヘルメットに翻訳された音声が二重になって聞こえてきた。
「私はこの星の人間ではないんだ」
またまたご冗談を。どう見てもこの星の人ですよ。と言いたいところを我慢した。でも,確かにちょっと違う気がしないでもない。
「私はオージ」
「王子?」
そうか,どこかの星の王子さまなのか。
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