第2章 助けを求める声

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 泣いていた。  私は混沌という恐怖に怯えて泣いていた。  見下ろしたつま先より先はなにもない穴がぽっかりと口を開けている。ガクガクと震え、いまにも転びそうになるけれど掴まるものなどなにもない。そこで倒れたら、奈落に落ちるしかない。一寸先どころか、すでに闇の中にいる。 「美貴」  突然、背後から声をかけられ飛び上がるほど驚いた。 「どうか、そのまま。振り向かないで」  声は静かに、優しく、語り掛けてくる。 「あなたは今闇に飲まれてしまった……。もう少し早く、異変に気付いてあげられていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。先に謝らせて…。ごめんなさい…」  その声は、強い悲しみを帯びていて、どこか懐かしさを匂わせる。 「あなたをそこから救うために助けを呼んで来ます。だからどうか、これ以上深い闇に引きずり込まれないようにしっかり気持ちを奮い起こして待っていて…! 必ず、助けに来ます」  私は震えながら頷いた。 「お守りをあげます」  声はそう言うと、風に流されるラジオのように遠ざかって行った。最後には、消え入るような微かな声で「どんなことがあっても、私は貴女を愛してる」と―――。  目を閉じると、目の前が眩しいほどに輝いている。漆黒の闇の中で、唯一光が存在する場所が私の中にある。このお守りをぎゅっと抱き締めると、足の震えが止まった。
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