第一章 隣人

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 川西美香子は29才のOL。田舎の両親に結婚しろとうるさく言われている。だが、仕事が楽しくて結婚する気などない。毎日のように催促の電話がきてうんざりしている。なんとか阻止したいと思っている。 「そうだ! 男友達に彼氏役頼もうかな?」  大学時代の友人に片っ端から電話を掛けまくる。だが、断られる。そんなことに協力したら、彼女になんて言われるか分からないからだとみんなに言われた。 1週間後、突然両親が、訪ねてくる。 「美香子、お見合い写真持ってきたわよ、34才独身、大手企業のエリートサラリーマンで高収入だそうよ、素敵でしょう?」  母は美香子の前に写真を置く。 しかし、結婚したくない美香子は咄嗟に嘘をついてしまう。 「実は、私ね、付き合っている人がいるの。結婚も考えています」 「そうだったの。ちゃんと紹介しなさいよ」  思い当たる人などおらず、どうしようと悩む美香子。  ある日の夜、マンションのエレベーターで知らない男に腕を捕まれ、キスされそうになる。その時、ドアが開き男性が乗ってきて、男は逃げていく。美香子は腰が抜けて、ペタンと座りこんだ。 「大丈夫ですか? 知ってる人?」  手を差しのべる男性に思わず涙をこぼす美香子。 「知らない人です。いきなり腕を組んでキスしようとしてきたんです」 「女性の夜の独り歩きは気をつけないといけませんよ」 「あなたは、このマンションの住人ですか?」 「そうです。302号室の亀井です」 「あっ、私は301号室の川西です」 「知ってます。お隣の人でしょう? よく見かけます」  美香子はふと思い出す。 「あの、お願いがあるんです。親が見合いしろとうるさくて困っているんです。一週間だけ彼氏を演じて貰いたいんですよ。お願いします」  突然で亀井は驚いたが、すぐに承諾してくれた。 「いいですけど、僕と同居して同じ寝室で寝るということですよ、それでも平気なのですか?」  美香子は考えた。亀井のいうとおりだ。しかし、やらなければ、お見合いしなくては、いけなくなる。覚悟は決めた。 「お願いします。亀井さん」  ハートのキーホルダーの付いた合鍵を渡した。 
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