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夏の終わりに風邪をひいた。
暦の上では秋とはいえ、まだ残暑の厳しいときだというのに恐ろしく寒い。それでいて熱も高く、何か食べようとしても身体が受け付けない。水くらいしか口に出来ず、あっという間にやつれてしまった。
……心当たりはなくもない。夏休みの最後に、友人たちと行った地元の祭りだ。途中で雨が降ってきて、ずぶ濡れになったのがいけなかったのだろう。せっかく楽しく過ごしたというのに、ついていない。
そんなことを思いつつ養生していたら、幼なじみが見舞いに来てくれた。こっちの顔を見るなり、ぎゅっと眉を寄せて険しい表情をする。そんなにひどいか、と聞くと、
「……なんか持って帰ったでしょ。この前のお祭りで」
いきなり断定されて驚いた。確かに、境内で見つけた白っぽい石を拾ってきたのだ。きれいだし、ひんやりした感触が気に入ったから。
そう返したところ、相手は何故か大きくため息をついた。自室の机に飾っていた、くだんの石を指さして言う。
「これ、もらっていいかな? もっときれいなやつあげるから」
翌日、いきなり熱が引いた。その日のうちに粥がのどを通るようになり、そこからの回復は驚くほど早かった。
数日がたって登校すると、幼なじみに呼び止められる。元気になってよかったと笑って、ポケットから何やら取り出しつつ、
「そうそう、神社で石拾うのはやめた方がいいよ。祟るから」
いつぞやのごとく、唐突な発言に一瞬固まる。こっちのリアクションに気づいていないのか、相手はどんどん話を進めていく。
「境内にあるものは神社のものだから。今回は謝って済むくらいでよかったけど、気を付けてね?
はい、これ」
さっさと話を締めくくって、手のひらにぽんと何かが乗せられる。淡い翠色の、可愛らしい小石だ。
律儀だね、と呟いたところ、
「いや、だって、約束しちゃったし。石が好きって知らなかったから、こんなのしかないけどさ……」
……微妙に照れつつ焦るという、彼女にしては結構珍しい表情が見れたので、ちょっぴり得した気分になったのだった。
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