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 カフェ雪月花は、最寄り駅から徒歩約五分の、商店街と住宅街の狭間という場所にある。白い外壁に緑色の三角屋根がかわいらしい店だ。入口の前には小さな庭があり、四季折々の花が客を出迎える。八月の今はひまわりが元気に咲いていた。  大通りを一本隔てただけで喧騒は遠く、落ち着いた時間を過ごすのに丁度いい。  午後四時。  花森晃大≪はなもりこうた≫はメニューボードを出し、ドアにかかる札をクローズからオープンへとひっくり返した。  このカフェの特徴はいくつがあるが、その一つは営業時間だ。  午後四時から午後十一時までという、普通は夕食の準備で忙しかったり家でのんびりしたりするような時間帯にオープンしている。  晃大は当初、そんな夜遅くに客が来るのかと疑問に思っていたが、これが意外にも仕事帰りの会社員やOLが訪れる。  経営者が言う「残業帰りにケーキを食べたい人だっているでしょ?」という言葉にも、一理あるらしい。  夕方の時間帯は学校帰りの学生たちが賑やかに過ごし、夜は仕事帰りの勤め人がゆっくりお茶の時間を楽しむ。  それがカフェ雪月花の日常だった。 「なんだか雨が降りそうな天気ですけど、お客さん来ますかねえ……」     
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