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 天気予報によれば台風が近づいて来ているらしい。まだ雨は降っていないし風もほとんどないが、空気はどんよりと湿っていた。こんな日はなるべく早く家に帰ろうと思うのが人情というものだろう。  あまりに忙しいのも困るが、全く人が来ないのも困る。ただの雇われ従業員としても経営が不安だし、せっかく作られたケーキが廃棄物になってしまうのも忍びない。  ただケーキに関しては、スイーツが大好きなここの経営者ならば、もし大量の売れ残りが発生しても廃棄などせず、自分用として冷凍保存する可能性が高いが。 「さぁ、どうかな。でも台風が来る前にウチのケーキを食べておこうっていうお客様もいるかもしれないよ?」  店の中ではウェイターの岸川月哉≪きしかわつきや≫が、ショーケースにケーキを並べていた。  月哉は不思議な営業時間を決めた、スイーツ好きな経営者でもある。  ゆるくウェーブのかかった栗色の髪と白い肌が中性的な雰囲気の美青年だ。晃大より十歳ほど年上のはずだが、確実に実年齢より若く見える。華奢な体躯には、白シャツに細身の黒いパンツとギャルソンエプロンという制服姿もよく似合っていた。  その優しげな風貌を裏切らず、丁寧で細かいところにまで気を配る接客が、特に女性客から絶大な支持を得ている。     
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