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雪に絡んでいたときとは打って変わって、瞬時に営業用スマイルを浮かべた月哉が歩み寄っていく。何度見てもこの変わり身の早さは神業だ。
女子高生たちは突然現れた王子様のようなウェイターを見て、素直にはしゃいでいた。恐らく、雪のもっとも苦手とするタイプの客だ。
「じゃあ俺は戻るぞ」
案の定雪は眉間に皺を寄せ、すでにキッチンへと踵を返しかけている。
「はい。何かあったら呼びますね」
「呼ばんでいい。クレーム対応もアイツの仕事だろう?」
雪の視線の先にはもちろん月哉がいる。さっそく人たらしの才能を発揮しているのか、楽しげに今日のおすすめを説明していた。
「クレームじゃなくて、ぜひパティシエに直接感想を伝えたい! っていう人もいるかもしれませんよ?」
実は今までにもそういう客はいたことがある。晃大は学生時代にもカフェやレストランでアルバイトをしていたが、そんなドラマのようなセリフは雪月花に来て初めて聞いた。月哉の言う「雪のシフォンケーキは世界一」という言葉もただのお世辞ではないのだろう。けれど褒められている当の本人は、喜んでもらえるのは嬉しいが人前に出るのは苦手だと言って、そんなときでも決して顔を見せることはなかった。
「お褒めの言葉はお前が代わりに受け取っておいてくれ」
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