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向かった先の路肩にはまった車を見てホームレスはある決心をする。
ホームレスは車を探す為、急いで車が通りやすい車道へ急ぐ。
女医の鈴原は母子家庭で育ち、苦学の末医学部へ入学、念願の医者となる。
奨学金は1500万を越えているが、母のおかげでなんとか仕事に集中していた。
しかし、母が難病で死んだ事から彼女の頭の中では自死しか選択肢はなかった。
妊婦の苦しむ姿をみる、さきほどまでとは。
キュルル、キーキュルル。
はまった溝とタイヤの回転で、甲高い音を立てる。
排気ガスをまともにかぶった富良野と阪井はせき込んだ。
鈴原が車のアクセルを全力で踏み、富良野と阪井が車のバックを前方へ押し上げていく。
ジリジリとわずかにタイヤが動いていき、頬を紅潮させた男達は歯を食いしばり戦っていた。
男達の奮闘の末、溝から車を救出した。
自分の車の無事がわかり阪井は安心し、富良野を元気づける。
「さーて、早く車に乗って病院へ行こうぜ。あんた、俺のドライビングに息をのむぜ」
「もうのみましたって、息だって絶え絶えですって」富良野も冗談を言う余裕が生まれていた。
和やかな雰囲気の中で、鈴原がエンジンを切って富良野達の所に悲壮な顔をしてやって来た。
阪井は、車が進む路地の先をぼんやり見つめている。
富良野には今の鈴原と同じような経験があった。仕事がなくなって無一文になる事を綾に話す時と、富良野の中では非常に似ていた。
「どうしたんですか?」富良野はおそるおそる鈴原に伺う。
「アクセルいっぱい踏んでもね、もう車が動かないの……本当にごめんなさい、私のせいで」
鈴原は自分の良い所すべてを涙が持っていってしまうくらい大粒のを地面に降り注ぐ。
蒼白になった富良野を尻目に、阪井はさきほどと変わりがなかった。
むしろ、どんどん元気になっていく。
阪井は路地の先に走り出した、まるで知り合いが近くにいた事に気づいたように。
「どこにいくんですか!あなたは!」富良野はつい阪井に怒鳴ってしまった。
「ヒッチハイクにだよ。ほぼほぼ止まる特別な仕様の」
三分もしない内に、阪井が言ったとおり富良野達は新しい車に乗せてもらえた。
乗用車でなく、いかついデコレーションが施された十トントラックであったが。
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