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一方その頃。
綾が苦痛にのたうっていた同時刻、穴だらけのジャンパーを着た不潔なホームレスは暖を探し、必死で都内を回っていた。
あの子を助けるために大きな毛布を分けてもらわねば、と決意し寒さに立ち向かっている。
「よしっ、着いたぞ綾。今、頼んでくるからな」
富良野は最寄りの緊急外来のある病院を指さす。エンジンをかけたまま、受付へ向かった。
「ひでぇ」
院内は、頭部や足に包帯を巻いた患者でごったがえしている。
咳払いやうめき声が始終聞こえた。がしゃがしゃと搬送用ベッドが、廊下を行ったりきたりしていた。
緊急外来の受付の男性に話しをつけるも、男性の答えはNOであった。
「申し訳ございません、他の重症患者の治療で手一杯でして…」
「こっちだって、深刻なんだよ、大問題なんだ!」
「申し訳ございません」
畜生、ポシェットは車の中に置いたままだ。目の前のこいつに突き立ててやりたいのに。
富良野は奥歯をぐっと噛みしめ、せめての皮肉として受付の男の口調を真似た。
「そうでしたか、お忙しい所本当にすまない。でしたら、他の緊急外来がある医院を教えて欲しいんですが……お時間ございますでしょうか?」
男は富良野の意図に気づくも、目前の穴の空いたジーンズを履いた貧相な中年に同情心が湧いた。できるだけ男の助力になるよう最善を尽くした。
「ちょっと、電話入れてみます」
「申し訳ありません……私は妻の看病をしなければならないので、外の軽まで連絡寄越してもらえますか?白のおんぼろでライトもついてます。よろしいでしょうか?」
10分後、男が軽の前方ドアにノックした。結果が芳しくない事を富良野に報告する。
富良野は、男から都内緊急外来がある病院の一覧地図を貰った。
ダメな所には、サインペンで×の字が記載されている。
富良野は綾を気遣いながら、駐車場から国道に出て一番近い病院を目指した。
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