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「もうないの、ガソリン?」綾が和真に尋ねる。
「……なんでわかったんだ」
「だって、病院に着いたなら和真さん、一目散で院内に行ってるから」
高速を引き返し、受付から渡された地図を頼りにとばしていた富良野だったが、ガソリンがないのに気付かった。
ガソリンメーターがゼロ付近をフラフラしている様子に、富良野は未練がましい思いでにらみつける。
やむなく近くのコンビニに富良野は停車した。
もう、病院に行けねえ。
追いつめられた富良野の脳内に、救急車の選択はない。
仮に富良野が救急車の存在に気付き、コンビニエンスストア脇に設置された公衆電話から連絡すれば事態は変わったのかもしれない。
残念な事だが、後に計20人の痛ましい犠牲が発生した玉突き事故によって、中央病院は修羅場と化し、富良野らは後回しにされた可能性が高い。
綾から漏れるうめきに、富良野は心の内で深い後悔をし始める。
もし、強盗をやってうまくいっていたら、医者に金をつかませてちゃんとあったかいベッドで俺達の子供を迎えられたんじゃないだろうか。
警察に捕まっても、子供の出産は安全にできたはずだ。
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