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「俺がいて正解だった。あんたらが向かおうとしてた病院、今玉突き事故の処置で忙しいんだぜ」
「どうして、そんな事知ってるんだ」
「客の一人が話してくれたんだよ。さっき病院まで送ってたんだ。裏道使わないと、一時間は余裕でかかったな」
運転手の阪井は裏道を利用して地図で×印のついていた病院の一つ西区立医院を目指していた。
裏道が病院への最短ルートであるからだった。
後部座席にいる富良野は綾の左手と半身を支えている。
「そうだったのか……」富良野は安堵する。
運転手が言うに、西区立医院は、ごり押しすれば折れるし何度も俺は世話になってる……なにより、今電話して事情話したら今回は特別ですよっだってよ。
もう10回は聞いたぜその台詞。
「本当にありがとうございます……でも、どうしてこんなに親切にしてくれるんですか……私ら、見たとおり貧乏人なのに」
「うるせえ!!」怒声で阪井は返答する。「そんなこったあ、生んでから考えな!!」
富良野は黙ってしばらく頭を下げ続けた。
阪井は富良野と綾に謝った後、今までよりもっとスピードを出して病院を目指した。
生け垣やブロック塀の路地を抜け、ライト以外真っ暗な中阪井は運転している。
このへんの土地勘に優れている阪井であったが、ほぼ空き家地帯で時刻も10時を過ぎている時に人が通りかかる事態を想定していなかった。
運転中の阪井の前に人が飛び出してきたのだった。
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