懐妊

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 後で聞いた話では、その少し前、裕福な王族の支援による海外留学生の募集があったのだという。そしてアジュラは、あまたの若者の中から見事に選ばれた。村どころか、不死王ナーダの治めるこの平和な高地を、自らの意志で離れていったのだ。しかし、ならばなぜ、彼女はひっそりといなくなってしまったのか。唯一、旅立ちを見送ったアジュラの両親も、実は留学に反対だったらしく、周囲に尋ねられても多くを語らなかった。  それから十年。村人たちの心の中で、アジュラはほとんど戻らぬ人となっていた。無理もない、何しろ海の向こうに旅立ったというのだ。海とは地の果てにある広大無辺の水たまりだと聞くが、その向こうとなれば、もはやこの世とは思えない。口には出さなくとも、村人たちはそう考えていた。  ジニもまた、アジュラとの再会を期待することはなくなっていた。まさか自分が王妃となり、彼女が侍医になる日が来るとは。 「積もる話がおありなのはわかりますが、どうか後ほど。まずは王妃さまの診察をお願いします。私は外へ出ていますから、何かあれば呼んでください」  高僧ミッシカはそう言って、部屋から出ていった。  指示の通り、侍医アジュラは診察を始めた。ジニも、胸にこみ上げてくるものが懐かしさなのか嘔吐感なのかわからないまま、無言でそれを受けた。     
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