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侍医はぎらぎら光る金物を取り出し、脈拍や呼吸の音を聴いたり、尿や血を少量採ったりした。彼女の父親がしていたように、食欲はあるかとか夜は眠れるかといった問診はしなかった。ミッシカから既に症状を聞いているからだろうと思ったが、それにしても久々に会うアジュラは口数が少なく、また表情も硬い気がした。息を詰めて、時折手が震え、どうやら緊張しているようだった。
もしや深刻な病なのかとジニは疑い、いずれにしても声をかけづらいほど熱心な検診であったので、ただ黙ってされるがままになっていた。
やがてアジュラが深い息を一つついて、診察は終わった。彼女は金物を片づけてミッシカを呼び戻し、何事か耳打ちした。ジニが固唾を飲んで見守っていると、二人は揃って振り向き、表情を綻ばせた。
「おめでとうございます」
いつも冷静なミッシカまでも、声音を聞けば珍しく高揚しているようであった。
「ご懐妊でございます」
「懐妊……?」
「はい。お身の内に、ナーダ王のお子を宿されたのです」
そう告げられたジニの心中は、ほとんど祝言のときのそれと変わらない。喜びよりも不安よりも、不思議に思う気持ちばかりが先に立った。
初夜に見た、簾の向こうの夫を思い出してみた。直に顔を見たのは、その一度きりである。乾き果てて、固く骨に貼りついた肌。腐りやすい臓物をすべて取り除いた、ご聖体。生命の息吹など一切感じられなかったあの肉体が、新たな命をジニの胎内に植えつけたというのか。
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