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しかし、何かが起こったのは間違いない。目覚めたとき、身体の深部に刻み込まれていた違和感。何者かが、自分の体内に侵入した痕跡に違いなかった。
「その、子というのは本当に、王さまの……?」
「当然でしょう。あなたは王妃なのですから」
ジニは侍医の顔を間近に見つめた。色褪せた唇に薄くなった眉。それでも爛々とした瞳には、幼いころに憧れた彼女を彷彿とさせる光があった。
「ご安心ください、王妃さま。お子がお生まれになるまで、わたくしが命に代えてもお守りします」
「アジュラ先生」
「わたしを信じて、ジニ」
強く握ってきたアジュラの手は予想外に冷たかったが、その細さに見合わぬ力強さがあった。王妃ジニは黙って頷き、それ以降、胎児の父への疑いを表明することはなかった。
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