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「わしを誰だと思っている。そちらにおわすナーダ王が弟の嫡孫、キギンであるぞ。おまえこそ控えるがいい」 「たとえどなたであろうと、王への直言はまかりなりませぬ。私がお取り次ぎいたします」 「ふん。ペテン師め」  不穏な風が砂を舞わせた。王子誕生の祝宴は始まったばかりで、誰一人酔ってはいなかった。王族キギンの言葉に女たちは口を覆い、古老たちは畏れおののいた。 「わしは王妃に話があるのだ。それなら取り次ぎも必要あるまい」 「なれど……」 「王妃よ。あなたは生身でおられる。わしの問いに、直にお答えいただけよう」  キギンの挑発は高僧の肩を越えて、ジニを直撃した。 「問え」  ようやく、王妃ジニは応じた。十七歳の澄んだ声は、有無を言わせぬ中年男の濁声に相対するには頼りない。  さればと、キギンはミッシカを押しのけるように、さらに前へ出た。王妃の横に安座する王には、一瞥もくれない。そして、ついにその言葉を口にした。 「王妃よ。あなたのお子は、誠に、ナーダ王の(たね)であられるか」  これで誰かが死ぬことになる――不死王ナーダか、王妃ジニか、王族キギンか、高僧ミッシカか。もしくは、まだ名のない王子か。  ジニは自らの腕の中を見下ろした。白いくるみに包まれた赤子は、浅い眠りを漂っているようだ。     
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