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裕福なだけに、身なりも立派なものだ。不死王ナーダとジニの祝言でも、つばの広い帽子に日光を和らげる眼鏡、派手な刺繍の入ったマントを身につけていて、実のところ新郎新婦よりも目立っていた。キギンは王族たちの中でも特に舶来物好きとして有名で、そうした装身具も海の向こうから伝わってきた貴重なものなのだろうと、人々は口を開けて眺めていた。
「お人払いをお願いしたいのだが」
挨拶もそこそこに、キギンは割れ鐘のような声で要求した。
「ミッシカも留守だというのに、何のお話です」
「そう警戒なさることはない。わしはあなたの味方だ。あの名高き僧正が明かさない真実を、ともに語り合いたいだけだ」
王族キギンにそう言われては、ジニも召使いたちを下がらせないわけにはいかなかった。ただ一人、アジュラだけは、王妃のそばに残った。キギンがそれを許したからである。
「身重の王妃に何かあっては一大事だからな。のう、女?」
キギンは胸元に光る首飾りを指先で弄びながら、意味ありげな笑みでアジュラに問いかけた。首飾りの先には針の三本入った円盤が吊り下がっていた。それもまた自慢の舶来物で、持ち歩き式の時計なのだという。しかしこの機械じかけの時計はなぜか毎日少しずつ時刻がずれていくため、日時計に合わせて調節しなければならないのが面倒で、今はほとんどただの装飾品と化しているという噂であった。
「さて、おかわいそうな王妃ジニよ。あなたは真に、その腹の子を、王の胤と信じておられるのだろうな」
「言うまでもないことを」
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