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いや――皆が、ではなかったかもしれない。次々と挨拶を述べに来る人々の中に、自分を品定めするような目もあったことに、ジニも気づかぬわけではなかった。しかし花嫁の胸中には、不安の雲も歓喜の光もなかった。笑いも泣きもせず、初めて踏む御座の上から見える景色を眺めているばかりだった。
なぜ、王は、今になって急に妃を娶ろうとしたのか。そしてなぜ、自分が選ばれたのか。そんなことを漠然と思った。しかしジニは賢い少女であったから、わからないものを無闇に恐れもしなかった。
婚礼の祝宴は朝まで続くが、そのさなかに新郎新婦は退席し、屋敷に籠もる習わしである。ジニは輿に従って王の屋敷へ向かった。古い門柱の間を抜けるときに、何か人ならぬものの匂いを嗅いだような気がして、身震いした。
広い板の間に織物が敷かれ、上等な調度の並ぶ暖かい部屋と、よく働く使用人たちが王妃のために用意されていた。しかしジニがそれらを自由に使えるのは、祝言が恙無く終了してからのことだ。まずはたっぷりの湯とシャボンをぜいたくに使って体を洗われ、香を焚きしめた夜着に包まれて、屋敷の最奥の部屋へ籠められた。そこで新婦は、新郎と契りを交わすのである。
寝室は乾燥していて、湯上がりの肌には少々寒く感じられた。広い上に、極端に殺風景な部屋だった。調度はほとんどなく、夜具すら見当たらない。それもそのはず、不死王は身を横たえて眠ることを必要としない体なのだ。
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