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がらんどうの真ん中に、王座があった。両側を燭台に挟まれ、正面に簾が提げられていて、ジニはその前に正座していた。
ジニは無論、妻としての務めについてなにがしかの知識を持っていた。初潮を迎えた少女は普通、母親からそれを学ぶ。母のない彼女は叔母や村の女たちから学んだので、他の少女たちよりもかえって様々な情報を聞き知っていた。だがさすがに、木乃伊に身を捧げた経験談など聞いたことはなかった。
「おそばに上がってもよろしいでしょうか?」
試しに、ジニは尋ねてみた。応答はない。期待はしていなかったものの、途方に暮れた。
相手は王である。許しもなく近づくのもはばかられた。しかしこうして座ったまま朝を迎えるのだろうか。首を傾げ、そのまま黙って座っていると、燭台の炎が微かに揺らいだ。
ジニは息を飲んだ。と同時に、背後へ声が湧いた。
「我が妃となる者よ。そう畏まらず、気を楽にするがよい」
扉が開く音は聞こえなかった。近づいてくる足音も。
「……王はそのように仰せです」
振り返ると、白地に紺の綾目の入った僧衣をまとい、結い上げた髪に冠を頂いた男が立っていた。青年と言ってもおかしくない外見と、それにはそぐわぬ老成したたたずまいを併せ持ったこの僧。話したことはなかったが、ジニもその名は知っていた。
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