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高僧ミッシカ。幼いころから神童の誉れ高く、長じるに従って高徳を積んだ彼は、今や唯一、不死王ナーダの声ならぬ言葉を聞き取れる僧であった。政治を執り行うのは大臣たちだが、大臣を選任するのは王であり、その決定を伝えるのはミッシカである。大臣が不正をしたとき、裁くのは王だが、判決を伝えるのもまたミッシカである。高僧ミッシカの言葉は、即ち不死王ナーダの言葉。誰もそれに疑義を呈する者はなかった。なぜならその言葉は、いつもよい方向に人々を導いてきたからである。
ジニの実家に縁談を伝える使者を送ってきたのも、他ならぬミッシカであった。彼は今回の祝言の一切を取り仕切っていた。物静かでありながら、指示は的確で過不足なく、役人たちが彼の手足のように動くさまを、ジニは目の当たりにした。村で見てきたどの大人よりも、立派な人だと思った。
そしてまた外見も、人並み外れている。好みは人それぞれと言うが、ミッシカの容貌の美しさは、そういったものに左右される次元ではない。妖しのような気配すら湛えている。この僧が不死王と言葉を交わせるのは、彼自身が何か常ならぬものの化身だからではないだろうか。そんな疑念すら、脳裏をかすめた。
「選ばれし娘ジニ。ナーダ王は、あなたを妃に迎えられることをたいそうお喜びであられます」
「そう、でしょうか」
「そうですとも」
ジニは簾の向こう側を振り仰いだ。確かに、王はそこにいるようだ。しかし返事はおろか、頷く気配も感じられなかった。
「あなたに王の声が聞こえないのは、あなたが生身の人である証ですから、何ら気に病むことではありません」
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