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「それでは、わたしは生きている限り、王さまの声を聞くことができないのでしょうか。ミッシカさまのように、厳しい修行をすれば、いつか聞こえるようになるのでしょうか」
「確かに修行を積めば、いずれは生身の肉体から自らの魂を解き放ち、声ならぬ言葉を聴くこともできましょう。しかし、それには長い時間がかかります。それに僧侶になっては結婚ができませんから、王妃になるあなたには、別の方法をお薦めしましょう」
「はい。お願いします」
高僧ミッシカは静かに前へ歩み出て、王座の左隣にある燭台を手に取った。それから、簾の前にひざまずき、裾を少し持ち上げてジニを振り返った。
促されるままに、身を低くして、ジニは簾の中をのぞいてみた。
最初に見えたのは、厚い敷物の上に置かれた黒い台座であった。その上に、くすんだ山吹色の布に包まれた膝頭。座禅を組んだその両脚の間に、泥のような色の固まりがあり、明かりを頼りに目を凝らせば、それは変色した人の手だ。肉の削げ落ち、乾き切った十本指が、腹の前で組まれていた。指先に、爪らしきものがどうにか見て取れる。
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