遺書

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 けれど同時に、おごった功名心があったのも事実です。わたしは周囲からもてはやされているうちに、心のどこかで自分を特別な人間だと思うようになっていました。小さな村の中で一生を終えるはずはない、選ばれた者しか行けない所があるなら、自分こそが行くべきだと信じていたのです。その思い上がりが、天罰を招いたのでしょう。  留学生に選ばれて王族キギンの屋敷に呼ばれたときに何があったか、詳しくは記しません。あの男はわたしを利用して異国の技術を手に入れ、王位を簒奪するつもりでした。だから、自らの意のままに操るために、わたしを身も心も完全に屈服させようとしたのでしょう。  もちろん、わたしの心は屈服などしませんでした。その代わり、夢と自尊心は粉々に打ち砕かれました。翌朝わたしはキギンの屋敷を抜け出し、町外れの崖へ走りました。あなたも知っているでしょう、そこは治る見込みのない病に冒された人が最後に行き着く場所です。身を投げれば、底なしの沼に落ち、亡骸を誰かに見られることもない。  わたしの皮膚には無数の痣がありました。あの男の指の形がはっきりと見て取れる痕も、歯型も。わたしの体に刻まれた罰は、一生消えることはない。選択肢は他にないと思ったのです。 『消えますとも。目に見える傷は、やがて必ず』  そんな声が真後ろから聞こえて、わたしは息も止まるほど驚きました。恐る恐る振り返ると、そこにはいつの間にか、ミッシカさまが立っていらっしゃいました。     
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