嫌いだったのに

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ミチは他界した夫が死ぬほど嫌いだった。ある日の午後にカフェで一人でカモミールティーを飲みながら大学同期生のユカリとLINEでやり取りしていた。ふと見上げると視線の先に亡夫に似た人がカフェのドアを開けて入って来てコーヒーを注文し、亡夫がそうだったようにフレッシュもシュガーも入れずにブラックで静かに飲んでいた。ミチは何故か気になって仕方がなく、その男性がカフェを出たら思わず後をつけたくなってしまっていた。ある程度の距離を置いて、まるで探偵のように歩き始めていた。気付いたら美術館の前にいた。彼がチケットを購入して中へ入ったので、急いでミチも「一枚お願いします。」と中に入った。パリの美術館のタピスリー展だった。この作品は大学でレポートを書いた事があり、まさか日本で展覧会が開催されるとは思っていなかったので来週大学時代の友と観に行く予定だった。その男性と逸れないようにタピスリーに見惚れながらも視線は乱れ、声をかける勇気はなかったが、亡夫とは美術館にも映画館にも入った事がなかった事を思い出しながら、夫婦生活は氷河期だったはずなのに心惹かれて行く自分自身がわからなくなってしまっていた。 中央にソファが置いてあり、そこに腰掛け休憩しながら男の後ろ姿に視線をまた送っていたら、娘がカレシと偶然やって来ていて驚いてしまい、思わず「あら、ミエちゃんどうしたの。」と大声を出してしまい、その男がこちらを見ていた。娘が「サトシくんよ。」と挨拶を交わしているうちに男を見失ってしまった。今度は三人で歩きながらタピスリーを観た後に二階のカフェに入り、またあの男が居るのではないかと店内を見回したが居なかったが、ミエが、「さっき、パパに似た人居たよね。」と笑って言った。
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