第1章

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確証は無いが、僕にはそう思えて ならない。 幾ら病院の薬を飲んでも、神社に行って お祓いをして貰っても、何も 変わらなかった。 いったい、幻聴の正体は何なのか? どうしても、知る必要があった。 海原の波のように次々と襲い来る幻聴と いうネガティヴな言葉の連続に、かなりの 精神的なダメージは計り知れない。 最近は、家の中で鬱ぎ込むことが、 多くなっていた。 家にいても外にいても、どの場所にいても はっきりと幻聴が聴こえてしまう。 もはやスマホは手放せない、けれども 何度録音しても、僕に聴こえた音は 現実には存在していない。 逆に、ポジティブな言葉の連続なら最高の 気分なのに、幻聴はそれを許してくれそう にもない。 1分、1秒、怯む事なく大ダメージを 与える言葉が並ぶ。 こんな事がいつまで続くのだろう、 心身共にもうヘトヘトだ。 時々耐えかねて言い返してみる、すると 10も100も罵詈雑言が飛んでくる。 相手の姿が見えない、まったくの ひとり相撲。 「もはや、これで終わりか・・・」 目の前に、死の文字が明滅を繰り返す。 赤文字が、デッドラインを示唆している ようだ。 この前、弟がやって来た。そして、僕に 生活費8万円をくれた。有り難かった、 これで今月も生き伸びられる。 長男として恥ずかしい限りだが、現状では いた仕方ない。頼れるのは弟だけ。 「兄さんも大変だと思うけど、少しでも 自分で稼いでくれないかな。こっちも 住宅ローンが残ってるし」 「すまない、なるべく負担を掛けない ようにするよ」 僕は土下座の格好になりながら、畳に 額を擦り付けるように深々と頭を下げた。 そっと弟が、円卓の上に現金が入った 封筒を置いた。 「いま、詩を書いてるんだ」 何気なく、僕が呟いた。 「売れてるの?」 僕が首を横に振ると、弟の口から大きな 溜め息が漏れ出た。 「俺の知り合いが占い師を知ってるん だけど、兄さんも行ってみない?」 「占い師?」 僕が驚くと、弟が勿体ぶりながらも。 「その占い師は、良く当たると同時に 霊能力者なんだ。兄さんの幻聴は何かが 憑依してるかもしれない。心霊的な ことなんだけど」 「何かが、取り憑いてる?」 弟が深く頷く。
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