第1章

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「兄さん、一度見て貰って除霊を」 そう言うと弟が、占い師の名前と住所の 書かれた紙を、封筒の横に置いた。 「占いの館、ヒミコ」 僕が、唐突に読み上げた。 「俺が料金払っとくから、行っといでよ」 そう言うと、立ち上がってそそくさと 帰って行った。 「こんな科学の時代に、心霊か・・・」 ひとり残った僕は、戸惑いながらも 覚悟を決めたのだった。 新宿にある雑居ビル群の一角に、7階建ての テナントビルが建っている。 占いの館『ヒミコ』は、3階にあった。 エレベーターで3階に上がると、 ワンフロワーが占い師の部屋が 並んでいた。 真ん中程にある扉の看板に『ヒミコ』と 小さく書かれていた。 ドアを2回ノックしたところ、中から 「ハイ」と甲高い女性の声が聞こえた。 ドアを手前に引き寄せると、中には20代 だろうか、若い女性がひとり佇んでいる。 全身を黒いドレスで包み、円卓の上には 直径20センチ程の水晶玉が置き台に 載せられている。どうやら水晶占いの ようだ、合掌したままひたすら水晶を 注視していた。 落ち着き払ってはいるが、かなり若い。 そして、僕の方を見詰めた。 「いらっしゃい、前の椅子にどうぞ」 優しく囁く彼女の前の椅子に、ちょこんと 座る。 小さい椅子だが、安定感はあるようだ。 「この紙に、生年月日とお名前を」 差し出された小さな紙に、目の前に 置かれたボールペンで記入した。 彼女がその紙を受け取り、さっそく 水晶玉に両手を翳しながら、何かを 見詰めている。 僕が怪訝な表情で見ていると、スッと 顔を上げて毅然とした態度で答えた。 「水晶にはそれ程悪い未来は映って いません。ただ、貴方には相当な悩みが あります」 つい僕は、身を乗り出しながら頷いた。 「貴方には、憑依霊が憑いています」 「やはり、何か取り憑いてますか?」 彼女は頷きながら、先程から僕の左肩を ジッと見ている。 「貴方の偏った食事とネガティヴな 感情に、暗い影が近づいています。ただ これも、貴方の過去世に関係があります」 「分かりますか?」 僕の興奮度が、一気に上がった。 それに反して彼女は、至って冷静だった。 「誰でも何らかの憑依はありますが、貴方 の場合は生まれつき、運命と宿命が 支配しています」 「それは・・・カルマ?」 僕の問いに、深く頷く。
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