〔一〕廃墟のホテル

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「リョータさんのフリが良かったんです」 「いや……」  撮影が中止になった途端、 リョータのテンションも下がった。  決して愛想がないわけではないが、 カメラが回っていないときのリョータは物静かでまるで別人だ。 「亜矢ちゃ~ん、 よかったよぉ!」  リョータにどう接すればいいか考えあぐねいていると、 マネージャーの()()(しん)(いち)が物陰から姿を現した。  五十がらみの脂ぎった大男だが、 マネージャーの腕は確かで、 この仕事も取ってきてくれた。 「ありがとうございます」 「だいじょうぶ? こわくない?」 「平気です、 安倍さんも見守っていてくれますから」 「いやぁ~、 亜矢ちゃんにそう言われると嬉しくなっちゃうよ!」  安倍はにやけた笑みを浮かべた。
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